エルフの日々

誰にも「約束」された場所があり・・そして誰もがそこを目指して一生懸命歩いてる
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「海と風と町と」

 「海と風と町と」


走ったのだ。
彼は後ろも見ずに、ただ走ったのだ。


遅くにできた息子を笑顔で見つめる彼に、嘗ての悪童の面影はなかった。
その微笑は、それまで苦労して掴んだ幸せの一部であり、沈殿した想いであった。
激情にかられ、いつも失敗する彼を、何処か冷めた感覚で見ていた。
いい歳をしてと、揶揄するのは簡単だった。
恵まれぬ彼が、自分の居場所を見つけ、海辺に小さな家庭を築いたのはそれ程遠い話ではない。
漸く訪れた古い友の幸せは、彼を包む優しい人と、そして彼女と慈しむ小さな命。
よかったなと、言うこちらが温められた。


3.11。あの日。
後ろで制止する声を振りほどいて、彼は小さな居場所に走った。
絶望的な風景。迫り来る恐怖。震える膝。悪寒の止まらぬ背中。
漸く見つけた幸せと、大切な人と、代えられるぬ命。もう間に合わぬその場所。
それでも、彼は走ったのだ。


新しいステージが輝くものであったなら、もう少し報われるのかもしれない。
誤魔化しの効かぬリスクに、全て対策を立て、自分が守るべき全ての対象を想う。
常識的な説得も、無機的な学術的知見も、人々の不安には届かない。
建設的に振舞えば振舞うほど、強くありたいと願えば願うほど、自分の限界を感じる。


それでも、それでも後ろを顧みずに大切な人達を守るために走った彼を想う時、自らを戒める。
膝が震えても、笑われても、理解されなくても、疲れていても、ただ大切な人々を守りたい。
古い友に、揶揄される分けにはいかないのだ。


在仙の出版社が、広く宮城県民から寄付を募り、嘗ての美しいみやぎの海の写真集を発刊した。

【海と風と町と】
http://www.m-omoide.jp/


津波の写真集は眩暈だけを残すけれど、嘗ての美しいみやぎの風景は涙を残す。
古い友が散った場所が航空写真で写される。彼を想う。
県内書店及びローソンで販売されています。
なかなか手に入らない場合は、弊社へご連絡下さい。

2011.10.25 Tuesday 21:55 | comments(0) | trackbacks(0) | 
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