エルフの日々

誰にも「約束」された場所があり・・そして誰もがそこを目指して一生懸命歩いてる
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彼の一歩

 彼の一歩


   震災から1月ほどして連絡が取れた彼は、奥さんと簡易宿泊所で生活していた。
それまで、彼はその町で比較的大きな店を出していた。
店は、それまで積み上げられた経験と、培った人脈で全国に知られる有名店である。
脱サラして20年。
恐らく独立して今の環境にまで店を育てるには、多くのドラマがあったはずである。


 簡易宿泊所の2人は、家族も家もそして全てをかけて育てた店も、津波に奪われていた。
物資のない時期だったので、埃をかぶったウイスキーボトルが差し入れ代わりだった。
一緒に飲みたかった。ただ黙って、飲みたかった。


 店は、見る影もない。泥土に埋まり、商品は流され、奪われ、廃墟であった。
残される負債を想う時、奪われたものを想う時、これからを想う力はそこにはなかった。
あの日、ついに彼の口から再建の話は聞けなかった。
途方に暮れ、悲しみ、悔やみ、怒り、そしてまた途方に暮れた。


 この夏、彼は瓦礫の中に店を再建した。
簡易宿泊所を出て、泥土を掃きだし、洗い、ガラスを入れ替えた店で生活してる。
話す彼の顔に笑顔が戻っていた。
「あのさ、仕事ないかな。」「この町で何か事業起こせないかな。」「働く場所必要なんだ。」
彼は、自分の店の心配をしていない。
彼は彼の町を、町の人々を心配している。
彼の一歩は、人生をかけてきたその店のある町の一歩と捉えている。
町の人々のために何ができるのかが、彼の一歩であった。


  あの日から間もなく半年たとうとしている。
混沌とした時代。不安とやりきれなさと疲労が、澱のように沈殿する。
不条理が重なると、義憤なのかただの怒りなのか分からなくなる。
自分の非力さと、小ささに呆れる日々。
ラジオから流れる昔の流行唄にふと涙が出たりする。
「確かな明日作戦」なんて、所詮自分のための安定剤だったかと、独り毒づく。


 そんな日常の中で出会った彼の一歩に、涙した。感動した。切ないほど感動した。
人が人を想う気持ち。誰かのために想いを馳せる。誰かのために力を尽くす。
未だ瓦礫と泥土に埋まり、進まない復興とまるで人事のように傍観する人々を嘆かず、彼らは自分たちの町のために一歩を踏み出した。
その姿に、癒され、励まされた。


 新しい季節が始まる。
新サテライトに伴い、フォーレストは大きく人事を動かした。
「確かな明日作戦」は、第二段階に入る。
皆、疲労が見える。十分がんばってきたこれまでの時間の代償である。
払われたその代償を想う。
私たちは、二歩目を踏み出す。

2011.08.25 Thursday 02:39 | comments(0) | trackbacks(0) | 
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