エルフの日々

誰にも「約束」された場所があり・・そして誰もがそこを目指して一生懸命歩いてる
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夏・空・海

 夏・空・海

 
  梅雨が明ける少し前に、仙台湾には南から黒潮にのって鰯が北上してくる。
その鰯を追って鯖や鰹やもっと大型の回遊魚が湾奥にまで回遊し始める。
照りつける強い日差しと、青と形容するにはふざけ過ぎる程の青い空の下、
海面に起こる鰯のナブラを追って魚も鳥もそして人も、夏を享受する。


 仙台湾で鯨やイルカが回遊している姿を観る事はそれ程難しくはない。
巨大なマンボウの昼寝に出くわす事もある。
紺碧の海面直下に大きなシイラや鰤が踊る。
夜、船中にこうこうと明かりを燈せば、大きな烏賊が群れて、
その下に船より大きな鮫を見つける。


 七ヶ浜の菖蒲田海岸、東松島の野蒜海岸の海水浴の賑わい。
松島の灯篭流しや石巻の川開きの花火は誰の記憶にもある。
夕日に照らされる南三陸の養殖筏。
口開けに当たれば、民宿で食べきれない程の雲丹が出る。
荒浜海岸の松林。遠く福島まで望遠できる仙南の砂浜。


  仙台の名物を問われ、牛タンと応える者は居ない。
仙台が宮城が誇る名物は海なのだ。
三陸の魚介。工夫を凝らした海産物加工。季節の魚で溢れる市場。
それがこの地の名物であり、私たちの生活の一部なのだ。
今年、宮城に海はない。
津波の記憶とその残骸は、私たちを海から遠ざけている。
鰯も鰹も烏賊も鮫も、イルカも鯨もマンボウも仙台湾に来ているだろうけれど、
私たちは海に行けない。
沿岸部には無人の野が広がり、瓦礫は片付けられたが未だ長い沈黙が漂う。
想像を超えた世界。皆その対処に苦しんでいる。


 黒潮は、鰯と一緒に別のものも運んで来ているだろう。
既に福島の海は壊滅している。
これまで南下していた放射能物質は、恐らく黒潮の北上に伴って仙台湾に侵入している。
私たちは、震災前の世界には戻れないのかもしれない。
私たちの海は、私たちの夏は、いったい何処に行ってしまったのだろう。

紺碧の海を、もう一度見たい。
塩釜や石巻の浜の空気を変えたい。
恐らく長い年月をかけて、私たちは私たちの海を取り戻すのだろう。
世界は、まだ終わっていない。

2011.07.28 Thursday 02:54 | comments(0) | trackbacks(0) | 
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